Wednesday, July 13, 2011

人から借りた本感想文:『うみべの女の子』 浅野いにお





『私、繊細だから』と真顔で言えちゃう人って本当に長生きできそうで羨ましい。なんかご飯とかもよく食べそうだし、歯とか消化器官とかも強そうだし。

海辺の町に住む中学生の日常を淡々とオムニポテントな三人称単数で描いた物語。正直、ちょっと前にお借りして一回サラッと読んでお返ししてしまったのでストーリーはうろ覚えですが、喪失感とか、セックスとか、暴力とか、大人が中学生の話を書く時にまず思いつくであろう要素がこれでもかといっぱいに詰まっています。

傷つきたくないから自分から先に周りをシャットアウトしてしまうという典型的な思春期少年、磯辺と、自分中心にしか物事が把握できないため、現実との真っ当な関係が築けない愚かな小梅。この恐ろしく幼稚な二人が恋愛をするというよりセックスをすることで物語が進行していくのだけど、恐らく力を入れて描いているであろう性描写は独特なグロテスクさがあり非常に秀逸です。

作者の浅野いにおさんはジャパニーズ・エモの教祖のような方だそうで、詳しいことはウィキペディアでも参照してくださればと思うのですが、この作品を読んで『エモさに対する嫌悪感というのはどこから来るのだろう?』という問いに関する自分なりの答えが出たような気がしました。

要は、エモとはナイーブさを最大限に理想化したものであり、その根底にある精神構造は『ありのままの自分』とか『等身大』とか『ナンバーワンにならなくてもいい』的な生温い自己承認なんじゃないでしょうか。チェスタートンの名言で『世の中は、君の理解する以上に栄光に満ちている』というのがあって、結構好きなんですけど、多分、磯辺君も、小梅ちゃんも、そんな栄光とは無縁の人生を送って行くんだろうなと思います。東京に出て、バイトしながら西荻辺りでなんとなく好きな人と同棲生活、みたいな。で、一生自意識に囚われたまま、傷つけたり傷つけられたりしながら生きていく、と。

『私、繊細だから』という言葉の裏にある『お前はそうじゃない』という傲慢さ、過剰な自己評価、一般人に対する特別な自分。この本の中の子達はまだ中学生だからいいけど、いい歳して結構こういう人多くてウンザリします。

普通に面白かったです。

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