まだインターネットが普及してなかった頃、ブリットポップってカッコいいワネ!という時代に、日本ではボロコモニと呼ばれる寄生虫がとても流行した。
ボロコモニはギョウ虫のようなもので、野菜を介してヒトの盲腸に潜み、産卵を肛門で行う。卵を産みつけられると痒くて痒くてたまらなくなって肛門を掻きむしってしまい、その卵がへばりついた手から食べ物などを介して他人の口へと運ばれ感染するというネバーエンディングなループを繰り返す厄介な寄生虫だ。
当時は、黒いバックグラウンドにただただ大きく、ストレートに「寄生されていませんか?ボロコモニ 厚生労働省」と赤い太い文字でプリントされたボロコモニ予防のポスターを街角でよく見かけた。その下には大体箱が吊るされており、中にはボロコモニ予防法についてのパンフレットが入っていた。
あの事件が起きた時、ボロコモニについてこれでもかというほど調べたから、15年以上経ってしまった今でも、ボロコモニの生態については割とはっきりと覚えている。
寄生の仕方はギョウ虫と全く同じだが、ボロコモニの成虫はギョウ虫より随分大きい。ボロコモニの成虫(メス)の体長は、目に見えるほどの大きさで約7cm、ギョウ虫の成虫(メス)の約7倍もある。ギョ ウ虫は1時間の間に約8000個の卵を肛門付近に産みつけるのだが、ボロコモニはそれより随分少なく50個程度。だがその代わり、卵が大きい。ギョウ虫の卵は直径40μm(1mmの25分の1程度)だが、ボロコモニの卵は1〜2mmで、目を凝らせばうっすらと目に見えてしまうほどだ。そして色は赤い。なぜか体液が赤いのだ。
卵を孕み体をパンパンに赤く腫らしたメスのボロコモニ達は、寝ているヒトの肛門が緩んだ隙にウヨウヨと肛門付近 に集まり一斉に卵を産む。そしてメス達は産卵の後、力尽きて死んでしまう。産み落とされた卵はブツブツとした赤い塊となり肛門の内側の粘膜にぶら下がり、約4日という早さで成虫になる。メスの死骸はボロボロと崩れ粉々になり便と一緒に排出される。
卵も成虫も生命力は気持ち悪いほど強く、空気にも熱にも強いため、感染した場合はシーツや下着を沸騰したお湯で3分間消毒しなければならなかった。
しかし、ボロコモニに寄生されたからといって命に関わるということはなく、薬を飲めば短期間で簡単に駆除できる。寄生された場合はお腹の調子が悪くなったり、食欲が無くなったり、掻きむしったアナルが炎症を起したりと、本当にその位の程度のものだった。
しかし、僕の通っていた小学校では、一人の苛めっ子が自信満々に
「人糞で野菜育ててそれを喰ってる貧乏人だけがボロコモニもらっちゃうんだぜ、気持ち悪い」と吹聴したせいで、この風評じみた馬鹿げたことを皆が信じてしまい、ボロコモニに寄生され万が一バレてしまったら、もう学校にも行けなくなる程恥ずかしいこととして認識されるようになってしまった。その上、「糞喰らい」という恐ろしいあだ名もつけられる。あの頃は、もしボロコモニに寄生されてしまったらと思うと、怖くて怖くてたまらなかった。
僕には、モトちゃんとノリちゃんという一卵性双生児の女の子の幼なじみがいた。
2人とも、ちょっと浅黒い肌が健康的で可愛らしいとても素直な子達だった。扁桃炎を繰り返し膿栓が溜まり口臭が醜い上に不細工だった僕にも、いつも優しくしてくれた。お菓子作りが女の子の間で流行り始めたときにはクッキーを焼いて持ってきてくれた。僕は、モトちゃんとノリちゃんの3つ隣の家に産まれたことが 本当にうれしくてうれしくてたまらなかった。
クラスが一緒だったモトちゃんは特に僕を慕ってくれていて、僕が学校を休んだ日には僕の家まで顔を覗きに来てくれた。朝からカップラーメンを食べて学校に行き気分が悪くなり教室の隅でゲロを吐いてしまった時も、モトちゃんは上履きのまま走って運動場に向い両手一杯に砂を掬い取ってきてくれて、恥ずかしくないようにと僕のゲロの上にその砂をそっと撒いてくれた。その後、口を濯ぐときも心配そうについてきてくれた。
笑うと右頬だけに浮かび上がるえくぼがとても愛らしくて、そのくぼみを舐めてしまいたかった。あぁ、本当に将来、モトちゃんと結婚したかった。
モトちゃんとノリちゃんの家はちょっとした大家族だった。
フィリピンパブに入り浸っている自営業のお父さん、町役場で働くお母さん、多少気が狂ったおばあちゃん、お兄ちゃん2人と、モトちゃんより7つ上のお姉ちゃんの8人家族だった。モトちゃんとノリちゃんの家は、そこまで裕福な家庭とはいえなかった。無茶ばかりする2人のお父さんのワンマン配管会社は借金まみれな上に経営不振で、いつ倒産してもおかしくない状態だった。そして、周りもその事を知っていた。しかし2人の愛くるしさはそんな事実をどうでもよくしてしまう力があった。
ある日、学校の終礼でボロコモニ検査用のシール(セロファンのようなもの)と付属の薄い封筒が配られた。このシールは二つ折りになっていて、半分の面は粘着状になっていた。朝起きたら、このシールを開いてツルツルした面をお尻の穴に当て、それからまた二つ折りにして張り合わせるようにして封筒に入れ、明日の朝提出することと担任から指示が出た。モトちゃんが自分自身でそのシールをお尻の穴に擦り付ける姿を想像すると、とても興奮してしまった。僕はお母さんにやってもらうんだし、モトちゃんの場合、妹のノリちゃんがモトちゃんの可愛いお尻の穴にシールをあてがったりするかもしれないな、と思うと、もっともっと興奮した。
そして、次の日に、あの事件へと繋がる出来事が起きてしまった。
続く
Wednesday, June 29, 2011
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